2011年、円谷プロ、テレビ神奈川、千葉テレビ放送、テレビ埼玉、サンテレビジョン、名古屋テレビ放送による共同製作バラエティ番組が深夜枠で放送された。その名も『ウルトラゾーン』。
「もしもこんなところに怪獣が現れたら…」をテーマに、パラレルな世界である「ウルトラゾーン」で様々な話が展開される、という設定。大きく分けて、コント、コメディ、本格特撮ドラマ、の3タイプに分かれる。
企画・全体構成を担当した酒井健作によると、『ウルトラファイト』(1970)や『アンドロメロス』(1983)といった本流から少し外れた企画性の高い作品が好きで、円谷プロでバラエティをやるならそんな作品を作りたいと思っていたという。『戦国鍋TV』(2010)を参考に、「怪獣をあまり知らない人」でも楽しめて、その上で「怪獣好きな人」には「わかる!」と言ってもらいたい、というコンセプトで会議が重ねられた。本編以外にも、短編コーナーやアイキャッチなど、怪獣を題材に多角的に楽しもうという雰囲気が感じられる。
本格ドラマパート8本を監督したのは田口清隆。全てジャンルを変え、視聴者にとって好きな回も嫌いな回もあってもいい、という気持ちで作ったという。同期の松野拓行プロデューサーがキャスティングをし、脚本も数話担当している。予算が限られている中で、本編と特撮を同じ現場で撮ったり、学生時代に自主映画で使った技法を採用しながら、クオリティの高いドラマ作りを意識したという。
中でも、大岡新一社長が気に入ったのが「THE LOVE」。田口監督の商業デビュー作『長髪大怪獣ゲハラ』に出演した丘みつ子を招き、ザラブ星人との「人間ドラマ」に仕上げた。この回のみ1話完結で、他の回は前後編。居酒屋で松野拓行が「宇宙人と田舎のおばあちゃんの恋物語なんてどうだろう」と切り出し、田口清隆が「面白そうだから、お前書いてみろよ」と脚本を任せたところから始まった。
・ザラブ星人のスーツには、岩田栄慶が入っているシーンと外島孝一が入っているシーンがある。
・アフレコで声を当てたシーンもあるのだが、丘みつ子の現場とアフレコの声の波形がまったく一致しているので、音響がびっくりしたというエピソードもある。丘みつ子は怪獣が大好きで、自身の陶芸作品の中にも怪獣があるとのこと。また、いつもは撮影が終わったら台本は捨ててしまうのだが、この「THE LOVE」の台本は大切に保存してあるという。役名は「池谷ミツ子」。
・UFO墜落シーン。飛び散る土は田口監督が自ら土を乗せたプレートを下から蹴って表現している。
・墓場でのザラブ。暮石がビルのようにも見える田口監督のアイデアカット。
・丘みつ子の絶妙のタイミングで流れる涙が凄い。さすが大女優。因みに、「今度はもうないのよ」という台詞は、脚本を書いた松野拓行が前年に祖母の危篤に立ち会ったときに実際に受けた言葉。
また、後に『THE NEXT GENERATION パトレイバー』(2014)の田口監督回である第10話「暴走!赤いレイバー」で民宿の女将役として呼ばれている。因みに、丘みつ子は1980年代に多くの母親役を演じたことで「日本のお母さん」と呼ばれ親しまれている。
「THE LOVE」がきっかけで、田口監督は後のウルトラシリーズ作品に監督として抜擢されるようになる。逆に言えば、「THE LOVE」がなければ近年の『エックス』(2015)、『オーブ』(2016)、『ゼット』(2020)といったウルトラシリーズの隆盛はなかったとも言える、運命的な作品。
[参考]
DVD『ウルトラゾーン』©2011円谷プロ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウルトラゾーン
https://ja.wikipedia.org/wiki/丘みつ子
You Tube 特爆!チャンネル 【田口清隆監督登場!】特撮は爆発だ! #240SP
https://www.youtube.com/watch?v=WpYryjOU7P0
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