初代『ウルトラマン』(1966)の完成されたデザインはどのように成立していったのだろうか。
当初は『科学特捜隊ベムラー(仮題)』という企画で、前作『ウルトラQ』(1966)に続く「モンスター・シリーズ」として設定されていた。科学特捜隊が窮地に陥るとヒーロー「ベムラー」が現れ、大きさ自由自在、必要に応じて空を飛ぶことも可能という万能選手。デザインは渡辺明が担当した。

 そこから、彫刻家の成田亨にバトンタッチ。
メインライターの金城哲夫は「かつてないほど格好よく、美しい宇宙人を創ってくれ」とオーダー。

 当時のヒーローといえば、『月光仮面』(1958)に見られるようにサングラスを掛けたり、『スーパーマン』シリーズに見られるようにマントを羽織った等身大の人間、という姿が定番だった。

 はたして「美しい宇宙人」とはどんな存在か。成田亨はギリシャ哲学をヒントに、怪獣がカオス(混沌)ならヒーローはコスモス(秩序)と位置づけ、デザインを起こしていく。

 頭部に兜、顔面はダイヤカット、体表は鎧的、とした初期デザインが完成する。

 そこからどんどん要素を削ぎ落していった。
続く企画書『科学特捜隊 レッドマン』では体全体にラインが走るデザインとなっている。

 この頃は『ウルトラマン』の名で企画書や台本も作られている。古代のギリシャ彫刻や広隆寺の弥勒菩薩に見られる微笑「アルカイックスマイル」を採り入れようとした跡が垣間見える。
「本当に強い人間は戦うとき、かすかに笑うはず」と考えたからだ。

 そして、目の形状が現在のアーモンド型に到達する。まだ鼻梁が存在し、顔の各パーツの処理を考えあぐねている状態となる。

 造型家・佐々木明と共に粘土原型の形出し切り替え、1尺程の人形が完成。これがウルトラマンの決定デザインとなった。俗にトサカと呼ばれる部分が頭頂部から口元まで伸び、鼻梁がなくなっている。
「肩を強調すると普通のヒーローになってしまう」という理由で筋肉の盛り上がりを強調せず、火星の模様をイメージした赤い線で流している。体色は宇宙ロケットに着想を得て銀色とした。

 また、カラータイマーは、ない。

 カラータイマーは、知らない内に後から勝手に付けられていたそうで、成田亨としては不満だったという。因みに、2021年公開予定の映画『シン・ウルトラマン』では、より成田亨デザインに近づけるべく、カラータイマーのないウルトラマンが登場する。

 また、出来上がったスーツには、ジッパーを隠す目的でトサカから繋がる背ビレが存在するが、デザイン画には背ビレの設定はない。視界を確保するために覗き穴も開けなければならず、これらも成田亨としては不満だったようだ。

cf.)「特撮のDNA」での展示はこちら→http://tokusatsu-ultra.xyz/archives/7747851.html

cf.)後年描かれた『真実と正義と美の化身』はこちら→http://tokusatsu-ultra.xyz/archives/7691964.html

 成田亨は神戸で生まれ、青森に移り1歳になる前に左手に火傷を負う。指がくっつき、曲がり、数度の手術でも治らなかった。小学校ではいじめられ、右手だけで描ける絵が救いだったという。

 東京の美術学校に進学し、絵画専攻だったが、授業に不満を感じ彫刻コースに移った。作業中、移植した皮膚から血が流れることもしばしばで、涙が流れた。

 宇宙人も怪獣も「異形」のものだが、成田亨にとっては自分自身が異形だったのかもしれない。
東宝の撮影所で「ゴジラ」に壊されるビルを作ったアルバイトがきっかけで、特撮美術にも精通するようになる。松竹や東映を経て、円谷プロの『ウルトラQ』に出会うのだった。

 『ウルトラセブン』(1967)の途中までは、怪獣・宇宙人は基本的に成田亨がデザインし、画家・高山良策が造型した。彫刻家が絵を描き、画家が造型するという逆アンサンブルは見事に功を奏し、傑作と呼ばれる怪獣・宇宙人たちを次々と世に現出させることになる。

cf.)『ウルトラマン』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6642931.html

cf.)『ウルトラセブン』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6375058.html

[参考]
You Tube CHBobcatsチャンネル ウルトラ伝説(初代マン編)Part2/4
https://www.youtube.com/watch?v=N3CFa6LaEGA&t=20s
https://ja.wikipedia.org/wiki/成田亨
2009年10月8日.日本経済新聞.p29.「成田亨の美しい宇宙人」
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