『ウルトラマンエース』(1972)第20話「青春の星 ふたりの星」はゼミストラー登場回。後に『ウルトラマンタロウ』(1973)で主役を演じる篠田三郎がゲストとして出演している、一風変わった印象の回。脚本は田口成光。監督は筧正典。特殊技術は佐川和夫。
ロケ地は沼津三津浜フローティングホテル「スカンジナビア」、そして沼津マリーナ。
・駿河湾上空の夜空を北極星に向かってパトロール飛行中、北斗は空に浮かぶ船を発見する。
・「イテッ」頬をつねってみたが、痛い。夢ではないようだ。本部に報告するが、レーダーには船は映っていない様子。
・蜃気楼を見たのだ、疲れていて幻覚を見たのだ、と隊員たちは信じてくれない。隊長から休むよう勧められ、休暇を取ることにする北斗。
ロケ地は沼津三津浜フローティングホテル「スカンジナビア」、そして沼津マリーナ。
・駿河湾上空の夜空を北極星に向かってパトロール飛行中、北斗は空に浮かぶ船を発見する。
・「イテッ」頬をつねってみたが、痛い。夢ではないようだ。本部に報告するが、レーダーには船は映っていない様子。
・蜃気楼を見たのだ、疲れていて幻覚を見たのだ、と隊員たちは信じてくれない。隊長から休むよう勧められ、休暇を取ることにする北斗。
・駿河湾に停泊中の船で、同じものを発見。旗が同じものかを確認するために旗を降ろすと、「バカヤロウ!」と見知らぬ青年に怒られる。「この旗はな、俺の命なんだ」青年の名は篠田一郎。船の機関室で働きながら船が動く日を2年も待っているという。スカンジナビア号と呼ばれている船の本当の名前は「ステラ・ポラリス(北極星)」。3年前に最後の航海をして以来、ホテルとして係留されているという。
この船の設定は実際のものと同じ。1926年にスウェーデンで建造され、翌1927年から「ステラ・ポラリス」として進水、「七つの海の白い女王」と呼ばれた。1940年にヒトラー率いるドイツ軍に接収されるが、戦後返還・修復され、クルーズ船として活躍。その後、高度経済成長下の日本に売却され、劇中の設定の通り、1970年からホテルとして営業を開始する。2005年に完全閉鎖し、スウェーデンへの売却が決まるが、2006年の曳航途中で老朽化のため太平洋に沈没してしまった。
・「俺が大学を飛び出してきた気持ちが、あんたなんかには分かるもんか。自由だ、解放だ。みんな勝手なことばかりやりやがって。真実なんてどこにもありゃしない。一体何を信じたらいいんだ、俺たちは。バカヤロー!」
この台詞から推測されるのは、篠田は大学闘争に失望したということだ。参加したのか、巻き込まれたのか、はたまた傍観を決め込んでいたのかは不明だが、いろんなしがらみから抜け出したかったのだろう。鎖に繋がれた船を見て、自分と同じだと思ったのだ。同じ境遇の船の中にいることで、一時の心の休養を図りつつ、エンジンを温め、考えを巡らせていたのだろう。一般には大学時代をモラトリアムと呼んだりするが、篠田にとってはこの船が究極のモラトリアムなのだ。
1960年代後半は世界各地で大衆による異議申し立て運動が起こっていた。ベトナム反戦運動、フランス五月革命、中国の文化大革命、プラハの春、等々。
新安保条約を巡る60年安保闘争は一旦退潮を見せていたが、上記の世界的な運動の広がりも影響し10年後となる1970年の条約自動更新を巡って70年安保闘争が起きた。東大闘争、日大闘争をはじめ、学生運動も活発化、暴力も行使された。
篠田の失望はこの70年安保闘争の出来事であろう。もしかしたら篠田の大学は東大だったかもしれない。。。
・「俺は2年前ここにきて、鎖で繋がれた船を見たとき、この船もいつかはきっと動くときがあると思った。俺はこの船が動く瞬間に賭けたんだ。その瞬間だけは絶対に真実だ。その日を信じて、俺はここにいるんだ。」自分の全てを懸けるものがこの船だという篠田。
「その気持ちは俺にも分かるような気がする」と共感する北斗。北斗としては、TACの隊員=大組織の一員として、個人ではどうすることもできない組織の論理に押し潰されたり、組織のしがらみにがんじがらめになった経験があるのだろう。この2人は、青春を鎖で繋がれた者同士なのである。
・ひとりでトランプをする北斗。ジャックのカードが出る。「不吉な予感がするなぁ」
当時、ハイジャックやシージャックが頻繁に起こり、社会問題となっていた。ジャックのカードはそんな社会状況を想起させる。因みに、後の『ウルトラマンタロウ』(1973)の企画当初の候補名に「ウルトラマンジャック」があったが、社会状況に鑑み廃案となっている。だが後に、帰ってきたウルトラマンの正式名として「ジャック」が採用されている。
cf.)『ウルトラマンタロウ』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/5925381.html
・一瞬、船が宙に浮いているのを見て、篠田を呼ぶが、篠田と一緒に確認すると、船は海の上に戻っていた。「楽しい夢を見るのもいいけど、俺まで巻き添えにしないでくれよな!」と文句を言う篠田。
・高速で飛んだために焼けただれた船腹を見て、再度船が飛んだことを主張すると、怒った篠田が飛びかかってきた。殴り合いの最中、旗が海に落ち、旗を拾うために飛び込む篠田と北斗。
「焼けただれた船腹」は戦時中を生き抜いたこの船の往年の錆や傷などだろう。時代を感じさせる感慨深いポイントを脚本の中にしっかりと仕込んでくるあたりは凄い。
・大蝉超獣ゼミストラー出現!セミと宇宙怪獣を合成した超獣。岩壁を割って錚々たる登場だ。
3000度の火炎を吐く。視力はないが、触覚のレーダーがあり、聴覚も良く、20km先の落ちたピンの音も聞き分けるという裏設定もある。
泣き声は『ウルトラマン』(1966)に出て来たゴルドンの流用。『ウルトラマン物語』(1984)に出て来たときは、キーラの泣き声が流用されていた。
スーツアクターは図師勲。
・よく見ると、逃げるために海に飛び込んだ一般客が、横から来たクルーザーに当たってしまっている。エキストラ(?)の人は大丈夫だったろうか。
cf.)連続写真はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6763515.html
・TACに通信。超獣を海へ追い落としてもらうよう連絡する。水も滴るいい男カットだ。
・「船は俺の命なんだ!」北斗のビンタを喰らっても逃げようとせず、船を守ろうと残る篠田。この気迫がいい。
・船の底に積んであったダイナマイトで鎖を爆破しようとする篠田。
・最後の一本だけ、ダイナマイトが足りず、糸鋸で鎖を切ろうとする。どうみても無謀な選択。
・超能力で船を浮かせるゼミストラー。船を飛ばしていたのはこいつだった。だが、なぜ船を宙に浮かせていたのかは劇中では語られていない。エースとの闘いに備えて特訓していたのだろうか。もしそうだとして、特訓が完成していたら、超能力でエースを放り投げたりしていたかもしれない。
・南は海へ落ち、泳いで北斗の元へ。今回は水中でのウルトラタッチだ。
・炎を顔面に喰らうエース。側転が一瞬遅れたのか、炎が一瞬早かったのか、あるいはその両方か。眼の覗き穴から炎が入ってこなかっただろうか。危険と隣り合わせで命懸けの特撮現場。
エースのスーツアクターは武内正治。
・ゼミストラーの炎で海へ落とされるが、同時に船の最後の鎖も切ることが出来た。「船が、船が動いた・・・」嬉しい表情でも、哀しい表情でもなく、微妙な表情の篠田。意外と簡単に船を鎖から解放できてしまった。今までの2年間は何だったのか。といったところか。
・ゼミストラーの顔を海へ押し込むエース。覗き穴から水が入ってくる水攻め状態だ。カットが掛かったらすぐファスナーを開けないと溺死だ。これも緊張感一杯の撮影だっただろう。
・豪快な巴投げを決めるエース。
・トドメはメタリウム光線。メタリウムは色彩が綺麗だ。
・大きな炎を上げてメラメラと燃え上がるゼミストラー。だが、いつものような爆散ではなく、ただ燃えたままヘナヘナと倒れしおれていく終わり方だったのも感慨深い。蝉をモチーフとした怪獣だけに、ある種の「儚さ」や「虚しさ」が感じられる。まるで安保闘争のようだ。
・篠田と握手をし、別れる北斗。篠田は大学へ戻るという。「俺は気が付いたんだ。待っていても船は動かない。自分で動かそうとしなきゃいけなかったんだ、ってな」「船を動かしたことを思えば、可能性は十分ある」「さよなら北斗星」
モラトリアムとの決別。引き籠るわけでもなく、ただ嘆くわけでもなく、自分に出来ることをするために動き出した篠田。表情は晴れやかだ。「北斗」と「北極星=ステラ・ポラリス=船」を掛けた二重の意味の別れの台詞も素敵だ。
観る者に何かを訴えかけるような、今を迷っている者の背中を押してくれるような、そんな力を感じる脚本であり、演出だった。篠田三郎の爽やかさと青空、そして、海のロケーションがマッチし、画面から潮の匂いが漂ってくるような快さも良い。
特撮面でも海や炎、豪華客船のミニチュアなど、内容が充実していた。撮影監督の川北紘一によると、水を使うシーンは作業能率が悪く、セットも濡れてしまうし、怪獣の着ぐるみも使えなくなってしまうので、現場スタッフはみんな嫌がるという。海のシーンでは、船の大きさに合わせた細かい波を立てるなどの高等テクニックが必要となり、ただスタジオにプールを作ればいいというものでもなく、意外と大変なのだ。
シリーズの中ではあまり有名な回ではなく、ゼミストラーの知名度も高くはないが、内容の濃さに関しては十分見応えがあり、考えさせられる回である。
cf.)『ウルトラマンエース』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/5915827.html
[参考]
DVD『ウルトラマンエース』©1972円谷プロ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウルトラマンAの登場怪獣
https://ja.wikipedia.org/wiki/スカンジナビア(客船)
https://ja.wikipedia.org/wiki/安保闘争
https://seesaawiki.jp/w/ebatan/d/%a5%bc%a5%df%a5%b9%a5%c8%a5%e9%a1%bc
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