『ウルトラマン』(1966)第2話「侵略者を撃て」はバルタン星人の初登場回。監督・脚本はともに飯島敏宏(脚本クレジットの千束北男は飯島敏宏のペンネーム)。特殊技術は的場徹。

 放映では第2話だが、製作順としては第1話。金城哲夫から企画や未確立だった設定を聞かされた飯島敏宏が、暗中模索の中、筆を走らせた脚本から生まれた。

 核実験で滅亡してしまった母星から逃れてきたバルタン星人。地球への移住を希望するが、人間との交渉は決裂し、侵略に走る。巨大化したバルタン星人を倒したウルトラマンは、バクテリア程の大きさになって宇宙船に留まっている約20億3千万のバルタン星人を、宇宙船ごと彼方へ運び去る。遠くで爆発の音と光。とくに説明はされていないが、大量殺戮ともとれる描写がなされている。

 続く第16話「科特隊宇宙へ」も飯島敏宏が監督・脚本を担当。二代目バルタン星人や小型のバルタン星人の群が登場し、陽動作戦を駆使して人類に復讐を仕掛けてくる。その際、前回の戦いで「ほとんど全滅してしまった」という説明が二代目の口からなされている。やはりウルトラマンと科特隊の活躍によりバルタンを倒すことに成功。

cf.)『ウルトラマン』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6642931.html

 その後も幾度となくバルタン星人は登場するが、しばらく飯島敏宏は携わっていない。

 そして時は経ち、2001年。円谷英二生誕100周年であり、ウルトラマン誕生35周年となったこの年、飯島敏宏は再びバルタン星人を演出することとなる。『劇場版ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』である。7月20日に公開となったこの映画は、ウルトラマンと少年の出会いに力点が置かれた。世界観や設定が一新されたこのシリーズでは、バルタン星人の描かれ方も改められている。争いを繰り広げるバルタンと人間(=大人社会)に対して、子どもたちの夢や願いの形としてコスモスが登場する。バルタンの侵略を止めに入るコスモスであったが、バルタン星人は自爆という道を選び、残されたチャイルドバルタンたちは自分たちが汚してしまった星に帰ってやり直す、という結末を迎えている。

cf.)『ウルトラマンコスモス』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/5982670.html

 同年の9.11を経て、2006年、『ウルトラマンマックス』(2005)第33・34話「ようこそ!バルタン星人」(前後編)が現時点で最後のバルタン星人演出となっている。

 バルタン星人は穏健派と過激派に分かれ、過激派のダークバルタンが地球に攻めてくる。バルタン星人の設定が掘り下げられ、より空想科学色の強い回となった。マックスやタイニーバルタン、そして子どもたちの活躍により、ダークバルタンを止めることに成功し、ダークバルタン自身も元の姿を取り戻し、タイニーバルタンと共に母星に帰っていく。

cf.)『ウルトラマンマックス』総論はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/5997988.html


 さて、飯島敏宏がバルタン星人を通して我々に言いたいこととは何だったのだろうか。

 飯島敏宏は1932年9月3日生まれ。終戦の1945年8月15日の時点では12歳だった。戦前と戦後を経験したことにより自身の中に相反する2つの価値観を持ち合わせるに至り、そうした境遇が『ウルトラマン』の中に「科学への憧れと懐疑」といった二律背反の傾向を持たせることになる。

cf.)戦時中を生きた子ども時代の自伝的小説『ギブミー・チョコレート』についてはこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/7207373.html

 たとえば、初代『ウルトラマン』における科特隊の活躍。科学の力を以て怪獣や宇宙人に応戦していく彼らは、基本的に科学の力を信じている。イデ隊員が発明する翻訳機や最新兵器は目を見張るものがあり、科特隊だけで怪獣を倒す描写もしばしば存在する。また、第2話においては、防衛軍がバルタン星人に対し、核ミサイル「はげたか」を発射する。これは飯島敏宏によると、限定核であり、原爆のようなものではなく、小さい範囲だけに多大な破壊力を発するような代物として描かれている。科学が発達した近未来ならそんなことも可能であろう、という、科学に対してオプティミストであったと述懐している(核実験で滅亡した星から来たバルタンに対し核を使ってしまったという点は後悔したという)。また、『コスモス』ならSRCの活躍。『マックス』なら重力バランス操作を理由とした『E.T』や『ハリー・ポッター』のようなファンタジー的描写。これらも科学に対する憧れと捉えることができる。

 その一方で、第2話においてはバルタン星の滅亡理由は核によるものとされ、ラストでは彼方での爆音と光、という原爆を想起させるような演出に不穏なBGMを被せている。『コスモス』や『マックス』では行き過ぎた科学と経済活動を原因とした環境問題が取り沙汰されている。こうした科学に対する懐疑といった面も垣間見えるのである。

 このように、科学へのアンビバレントな態度の象徴として、バルタン回は存在する。つまり、バルタン星人とは、我々人類の反面教師であり、科学や経済の進め方を一歩間違えればこうなりかねない、という未来の姿なのだ。実際に、『マックス』第34話では、バルタンたちが実は元々人間と同じ姿形をしていて、行き過ぎた科学と経済の果てに醜い体質変化を遂げてしまった旨が説明されている。

 彼らは「悲劇の宇宙人」であると同時に、「未来の地球人」でもあったのだ。上半身はゴツゴツとして手には大きなハサミを持っているにも拘らず、意外にも下半身はあっさりとした、ある種の知的さをも感じさせるフォルムからは、望まぬ進化を遂げてしまった悲哀すら漂ってくる。あの異形の姿そのものが我々への警鐘なのだ。

後編に続く。

cf.)後編はこちら→http://ultra-7.blog.jp/archives/6867426.html

[参考]
DVD『ウルトラマン』©1966円谷プロ
DVD『劇場版ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』©2001円谷プロ/映画ウルトラマンコスモス製作委員会
DVD『ウルトラマンマックス』©2005円谷プロ
Blu-ray『ULTRAMAN ARCHIVES 侵略者を撃て』©円谷プロ
『「ウルトラマン」の飛翔』著:白石雅彦 出版:双葉社

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